それは、私が今の家に引っ越してきて初めての夏のことでした。ベランダの隅、エアコンの室外機の上に、直径5センチほどの、お椀を逆さにしたようなアシナガバチの巣ができているのを、ある日の午後、発見してしまったのです。働き蜂の数もまだ5~6匹。インターネットで調べると、「初期の巣なら自分で駆除できる」という情報と共に、「ハッカ油が効く」という記事が目に留まりました。化学的な殺虫剤は使いたくない、という安易な自然派志向と、業者に頼む費用を節約したいという下心が、私の判断を致命的に曇らせました。「これなら、安全に、安く解決できるかもしれない」と。私は意気揚々と薬局でハッカ油を買い、濃いめのスプレーを作りました。そして、日が暮れるのを待ち、手作りの武器を片手に、恐る恐るベランダへ。巣の上でじっとしている蜂たちに向かって、私は思い切りスプレーを噴射しました。その瞬間、事態は私の想像を遥かに超える、悪夢へと変わりました。穏やかだったはずの蜂たちは、ハッカ油の刺激に狂ったように飛び回り、一斉に、けたたましい羽音を立てて私に向かってきたのです。パニックになった私は、スプレーを放り出し、悲鳴を上げながら網戸に激突するようにして部屋に逃げ込みました。幸い、刺されることはありませんでしたが、窓ガラスには、怒り狂った蜂たちが何度も体当たりしてきます。その夜、私は恐怖で一睡もできませんでした。翌日、私は震える手で、プロの駆除業者に電話をかけました。事情を話すと、電話口の担当者の方に、「お客様、それは一番やってはいけない、蜂を最も怒らせる方法ですよ」と、優しく、しかしきっぱりと諭されました。結局、業者の方があっという間に駆除してくれましたが、その費用以上に、自らの無知が招いた恐怖体験は、私にとって大きな代償となりました。あの時の蜂の羽音は、私に教えてくれました。生半可な知識で、自然の猛威に挑むことが、どれほど愚かで危険なことであるかを。
ハッカ油で蜂の巣を駆除しようとした私の大失敗