「ハッカ油は蜂よけに効果がある」という話は、もはや常識のように広まっています。しかし、この「蜂」という言葉は、実は非常に曖昧で、その種類によって、ハッカ油に対する反応や、そもそも遭遇するシチュエーションが大きく異なるという事実は、あまり知られていません。効果的な対策のためには、相手がどの「蜂」なのかを意識することが重要です。まず、私たちが最も恐れ、対策の主眼としているのが、「スズメバチ」や「アシナガバチ」といった、攻撃性の高い「狩り蜂」の仲間です。これらの蜂は、肉食性で、巣を守る本能が非常に強いのが特徴です。ハッカ油の強い香りは、彼らの嗅覚を刺激し、巣作り前の女王蜂を遠ざける「予防」効果は、確かに期待できます。しかし、一度巣ができてしまうと、前述の通り、防衛本能が不快感を上回り、逆効果となるリスクをはらんでいます。次に、私たちの生活に密接に関わっているのが、「ミツバチ」です。彼らは、花の蜜や花粉を集める、温厚な性格の蜂です。ガーデニングや家庭菜園にとっては、受粉を助けてくれる、かけがえのないパートナーです。しかし、残念ながら、ハッカ油の香りは、この益虫であるミツバチも同様に嫌います。そのため、良かれと思って庭全体にハッカ油を撒いていると、作物の実りが悪くなるという、意図せざる逆効果を招く可能性があります。そして、もう一つ、忘れてはならないのが、「クマバチ(キムネクマバチ)」です。ずんぐりとした体にブーンという大きな羽音から、スズメバチと誤解されて怖がられがちですが、実は非常に温厚で、オスに至っては針さえ持っていません。彼らは、枯れ木などに穴を開けて巣を作るため、家の軒下などに巣を作ることはほとんどなく、そもそも対策の対象として考える必要性は低いと言えます。このように、一口に「蜂」と言っても、その生態と人間との関係性は様々です。対策を講じる際には、まず、自分の周りを飛んでいる蜂がどの種類なのかを冷静に観察し、その相手に合わせた、適切な距離感とアプローチを考えること。それが、過剰な恐怖から解放され、自然と賢く共存していくための、第一歩となるのです。
ハッカ油が効かない蜂、効く蜂