古くから、テントウムシは幸運を運んでくる縁起の良い虫として、世界中で親しまれてきました。「天道虫」という和名も、太陽に向かって飛んでいく習性から名付けられたと言われています。実際に、彼らは農業やガーデニングにおいて、非常に有益な「益虫」として大活躍してくれます。その主食は、植物の養分を吸い尽くすアブラムシです。テントウムシの成虫だけでなく、グロテスクな見た目の幼虫も、驚くほどの大食漢で、一匹で数百匹のアブラムシを食べると言われており、農薬に頼らない自然農法でも活躍する、頼もしい用心棒なのです。では、そんな益虫である彼らが、なぜ家の中では「害虫」として扱われてしまうことがあるのでしょうか。その理由は、彼らが時に「大量発生」し、私たちの生活に実害をもたらすことがあるからです。一匹や二匹なら歓迎できても、数十、数百という大群で家の中に侵入し、窓枠やカーテンの裏を埋め尽くす光景は、決して心地よいものではありません。また、彼らは危険を感じると、脚の関節から黄色い防御液を出します。この液体は、独特の強い臭いを放ち、白い壁紙やカーテンに一度付着すると洗濯してもなかなか落ちない、頑固なシミを作ってしまうことがあります。さらに、近年問題となっているナミテントウなどは、時に人を噛むこともあり、その死骸がハウスダストに混じればアレルギーの原因となる可能性も指摘されています。つまり、テントウムシは、屋外の生態系においては紛れもない「益虫」ですが、一度人間の生活空間に大量侵入した時点で、その境界線を越え、「不快害虫」という側面も持ち合わせてしまうのです。幸運のシンボルも、数が度を過ぎれば悩みの種に変わる。結局のところ、益虫と害虫の境界線を引いているのは、私たち人間の都合なのかもしれません。それが、家の中のテントウムシ問題の、複雑で悩ましい実態と言えるでしょう。
家のてんとう虫は幸運の印?益虫と害虫の境界線