自宅のベランダや軒下に鳩の巣を発見した時、「すぐにでも撤去したい」という衝動に駆られるのは自然なことです。しかし、その行動は、知らず知らずのうちに法律を犯してしまう、極めてリスクの高い行為であることを、まず最初に理解しなければなりません。鳩の巣の駆除において、私たちが直面する最大の壁、それは「鳥獣保護管理法」という法律です。この法律は、野生の鳥類や哺乳類を保護し、生物の多様性を確保することを目的としており、その中で、都道府県知事などの許可なく、野生の鳥類の「卵」や「雛(ひな)」を捕獲したり、採取したり、殺傷したりすることを固く禁じています。鳩(ドバト)も、この法律で保護される野生鳥獣に含まれます。つまり、もし発見した鳩の巣の中に、卵が一つでも、あるいは雛が一羽でも存在する場合、それを勝手に撤去・処分してしまうと、この法律に違反することになり、「一年以下の懲役または百万円以下の罰金」という重い罰則が科される可能性があるのです。この法律の存在を知らずに、良かれと思って巣を片付けてしまった、というケースは後を絶ちません。では、どうすれば良いのでしょうか。法律的に、私たちが自力で駆除できるのは、巣の中に卵も雛もいない、完全に「空(から)の巣」だけです。空の巣は、鳥獣保護法の対象である「鳥」や「卵」を含まないため、単なる「物」として扱われ、撤去しても問題ありません。したがって、鳩の巣を発見したら、まず行うべきことは、巣に近づきすぎない安全な距離から、巣の中に卵や雛がいないかを慎重に確認することです。もし、卵や雛の存在が確認された、あるいは親鳥がじっと巣に座っていて中が確認できない場合は、決して自分で手を出してはいけません。その時点で、問題はあなたの手を離れ、専門家、すなわちお住まいの自治体の担当部署や、プロの駆除業者に相談すべき段階へと移行するのです。