それは、日曜日の昼下がり、私がリビングでうたた寝をしていた時のことでした。「ブーン…」という、重低音の羽音で、私はぼんやりと目を覚ましました。音のする方へ目をやると、レースのカーテンに、私の親指ほどもある、巨大な蜂が止まっているではありませんか。オレンジと黒の禍々しい縞模様。スズメバチです。その瞬間、私の眠気は完全に吹き飛び、心臓はドラムのように激しく鳴り始めました。私は、音を立てないように、まるでスローモーションのようにソファから滑り降り、這うようにしてリビングから脱出しました。そして、震える手でスマートフォンを握りしめ、「家 蜂 対処法」と検索しました。そこには「刺激しない」「窓を開けて待つ」という、シンプルながらも、実行するには鋼の精神力を要するアドバイスが書かれていました。私は、意を決して、リビングのドアをそっと開け、部屋の隅にある窓の鍵に、ゆっくりと手を伸ばしました。スズメバチは、まだカーテンの上で、時折羽を震わせています。窓を開けた瞬間、ヤツがこちらに向かってきたらどうしよう。最悪のシナリオが、頭の中をぐるぐると駆け巡ります。深呼吸を一つ。私は、一気に窓を全開にし、再び廊下へと飛び出しました。そして、固唾を飲んで、リビングの様子をドアの隙間から窺います。一分、五分、十分。時間は、永遠のように感じられました。スズメバチは、しばらく窓の周りを飛び回っていましたが、やがて、開け放たれた空間へと、ふっと姿を消しました。私は、さらに十分ほど待ってから、おそるおそるリビングへと足を踏み入れました。部屋には、夏の日の静寂が戻っていました。私は、その場にへたり込み、大きく息をつきました。たった一匹の蜂。しかし、それは、我が家という安全な城が、いかに脆いものであるかを、私に思い知らせるには十分すぎる存在でした。その日以来、私が窓を開けっ放しにすることは、二度とありませんでした。
蜂一匹で大騒ぎ、私の夏の日の奮闘