それは、友人と田舎へキャンプに出かけた夏の夜のことでした。ランタンの灯りの下で談笑していると、首筋に何かが止まったような微かな感触がありました。特に気にせず、無意識に手でパッと払いのけてしまったのです。その時は蚊か何かだろうと軽く考えていましたし、痛みもかゆみも全くありませんでした。その夜はそのまま就寝し、翌朝、キャンプ場を後にして自宅に戻りました。異変に気づいたのは、その日の夕方、シャワーを浴びている時でした。鏡を見ると、昨夜虫を払った首筋のあたりが線状に赤くなっているのです。触るとヒリヒリとした熱感があり、まるで軽い火傷を負ったかのようでした。その時は日焼けか何かだろうと思っていたのですが、時間が経つにつれて赤みは増し、ズキズキとした激しい痛みに変わっていきました。翌朝には、その線状の赤みに沿って無数の小さな水ぶくれができており、見た目もかなりひどい状態になっていました。ただ事ではないと感じ、慌てて皮膚科に駆け込みました。医師は患部を一目見るなり「あ、これはやけど虫ですね」と即答しました。線状皮膚炎という、まさにやけど虫の体液が引き起こす典型的な症状だとのこと。あの時、無意識に払ったことで虫の体液が皮膚に線状に塗りつけられてしまったのです。処方された強めのステロイド軟膏を塗って治療を開始しましたが、痛みと水ぶくれが引くまでに一週間以上かかりました。水ぶくれが破れた後の皮膚は色素沈着を起こし、しばらく跡が残ってしまい、本当に憂鬱な日々を過ごしました。この経験を通して、虫が体に止まっても決して手で払ってはいけないという教訓を骨身に染みて学びました。たった一匹の小さな虫がもたらす被害の大きさを、私は決して忘れることはないでしょう。