私たちが「蜂」という言葉を使う時、その頭の中にあるのは、ほとんどの場合、スズメバチやアシナガバチといった、危険な害虫のイメージでしょう。しかし、私たちの身の回りには、人間にとって非常に有益な活動をしてくれる、益虫としての蜂、「ミツバチ」も存在します。そして、スズメバチ対策として良かれと思って使っているハッカ油が、実はこの大切なパートナーであるミツバチまで遠ざけてしまうという、意図せざる「逆効果(unintended consequence)」を生み出している可能性があるのです。ミツバチは、ご存知の通り、花の蜜を集めて蜂蜜を作るだけでなく、その過程で植物の受粉を助ける、極めて重要な役割を担っています。私たちが普段口にする野菜や果物の多くは、ミツバチたちのこの勤勉な働きがなければ、実を結ぶことができません。彼らは、生態系を支える、かけがえのない存在なのです。家庭菜園やガーデニングを楽しんでいる方にとっては、ミツバチはまさに、豊かな収穫をもたらしてくれる、最高のパートナーと言えるでしょう。しかし、残念ながら、ハッカ油の強い香りは、スズメバチやアシナガバチだけでなく、ミツバチにとっても同様に不快なものです。そのため、スズメバチを寄せ付けないために、庭の植物やベランダの花にハッカ油スプレーを熱心に吹き付けていると、その匂いを嫌ったミツバチまで寄り付かなくなってしまう可能性があります。その結果、トマトやキュウリ、カボチャといった、受粉が必要な野菜の結実が悪くなったり、大切に育てている花の付きが悪くなったりする、という本末転倒な事態を招きかねないのです。これは、スズメバチの被害を防ぐという目的は達成できても、植物を育てるという、もう一つの目的を阻害してしまう、まさに皮肉な逆効果です。対策としては、ハッカ油を使用する場所を、巣を作られやすい軒下や窓枠などに限定し、花が咲いている植物の周りでは使用を控える、といった使い分けが必要です。敵を遠ざけることだけに集中するのではなく、味方である益虫たちの存在にも配慮する。その視野の広さが、より豊かで、バランスの取れた庭づくりへと繋がるのです。
益虫であるミツバチまで遠ざける逆効果