やけど虫、アオバアリガタハネカクシが持つ毒素「ペデリン」。この物質は、私たちの身近に存在する昆虫が持つ毒としては、異例なほどの強力さを持っています。その毒性は、しばしばコブラの毒と比較されるほどで、皮膚に対する強い炎症作用と、細胞毒性を特徴とします。ペデリンは、単なる刺激物ではありません。それは、皮膚の細胞に直接作用し、細胞の分裂やタンパク質の合成を阻害することで、細胞そのものを壊死させてしまう、非常に厄介な毒素なのです。やけど虫の体液が皮膚に付着すると、ペデリンは速やかに皮膚の表面から浸透し、表皮細胞にダメージを与え始めます。これが、数時間の潜伏期間の後に、灼熱感を伴う赤い炎症として現れる理由です。そして、ダメージを受けた細胞が死滅し、組織液が溜まることで、特徴的な水ぶくれ(水疱)が形成されます。この水ぶくれの中の液体にも、活性を失っていないペデリンが含まれているため、水ぶくれが破れて液体が周囲に広がると、その部分にも新たな皮膚炎が引き起こされるのです。ペデリンの恐ろしさは、皮膚だけに留まりません。もし、ペデリンが付着した手で目をこすってしまうと、その毒性は眼球の粘膜にも強烈なダメージを与えます。激しい痛みと共に、結膜炎や角膜炎、虹彩炎といった深刻な眼疾患を引き起こし、治療が遅れれば、視力低下や、最悪の場合、失明に至る危険性すらあります。また、もし誤って口から体内に入った場合は、消化器系の粘膜を激しく損傷させ、嘔吐や下痢、血便といった中毒症状を引き起こします。幸いなことに、やけど虫一体に含まれるペデリンの量はごく微量であるため、全身的な中毒症状に至ることは稀です。しかし、その微量な毒素が、局所的にはこれほどまでに激しい症状を引き起こすという事実を、私たちは決して軽視してはなりません。やけど虫の小さな体には、私たちの想像を絶する、強力な化学兵器が秘められているのです。