古いアパートに一人暮らしを始めて数ヶ月が経った頃、私は人生で最大級の衝撃的な出会いを果たしました。深夜、ふと顔を上げた視線の先、リビングの壁に張り付いていたのは、手のひらほどもある巨大な蜘蛛でした。その筋骨逞しい脚と圧倒的な存在感から、インターネット上で「軍曹」の愛称で親しまれているアシダカグモであることはすぐに分かりました。家に蜘蛛が出ることはそれまでも何度かありましたが、これほどまでに巨大な個体は初めてで、最初はあまりの恐ろしさに金縛りにあったほどです。しかし、アシダカグモについて調べていくうちに、彼らが「ゴキブリハンター」としての異名を持ち、人間に対しては極めて臆病で毒も持たないことを知りました。それどころか、家にいるゴキブリを全て食べ尽くすと、自ら次の狩り場を求めて家を去っていくという、まるで一匹狼の用心棒のような生態を持っているというのです。私は恐怖心を押し殺し、彼を「軍曹」と呼び、同じ屋根の下で暮らすことを受け入れる決意をしました。それからの生活は不思議なものでした。軍曹は決して私を攻撃することはありません。たまに夜中にトイレに起きた際、廊下の壁を音もなく高速で移動する彼と目が合うことはありましたが、彼はすぐに影へと隠れてしまいます。驚くべきことに、彼が我が家に現れてからというもの、それまで頻繁に悩まされていた小さな害虫たちの姿を全く見かけなくなりました。キッチンの隅でカサカサと動く不快な音も聞こえなくなり、私の精神的な平穏は、皮肉にもこの巨大な蜘蛛によって守られることになったのです。家に蜘蛛が出るという状況は、普通に考えれば不衛生で嫌なものですが、軍曹との共同生活を通じて、私は自然界の合理的なバランスを目の当たりにしました。彼は自らの空腹を満たすために獲物を狩り、私はその副産物として清潔な部屋を享受する。そこには言葉のない契約が成立しているかのようでした。もちろん、友人や家族が遊びに来た際には、この「隠れた同居人」を説明するのに苦労しましたが、彼がもたらす実利を知ると、誰もが複雑な表情を浮かべつつも納得してくれました。数ヶ月後、いつものように壁を探しましたが、軍曹の姿はどこにもありませんでした。彼は約束通り、我が家の害虫を一掃し、新天地へと旅立っていったのでしょう。家に蜘蛛が出るという経験は、多くの人にとってただのパニックの種かもしれませんが、私にとっては野生の逞しさと、共生という考え方を教えてくれた貴重な時間となりました。今でも時折、壁の隅を眺めては、あの頼もしい軍曹の姿を思い出すことがあります。蜘蛛という生き物に対する偏見が消え、彼らもまた、必死に生きる地球の住人であることを実感した、奇妙で忘れられない夏の記憶です。
我が家に棲みついた軍曹との奇妙な共同生活