それは、五月の連休を利用して庭の古いツツジを植え替えようと思い立った、穏やかな午後の出来事でした。長年手つかずだった庭の隅、少し土が盛り上がった場所にある株を掘り起こそうと、私は勢いよくシャベルを地面に突き立てました。ザクッという土を切る感触とともに、根元を浮かせようと力を入れた瞬間、何とも言えない不吉な音が足元から聞こえてきたのです。それは、乾いた木の葉がこすれ合うような、それでいて重低音を含んだ「ブーン」という低い唸り声でした。最初は何が起きたのか分からず、ただ呆然と地面を見つめていましたが、シャベルで開けた土の割れ目から、小さな黒い塊が一つ、また一つと這い出してくるのを見たとき、全身の血が引くような感覚に襲われました。それはクロスズメバチでした。私が掘り返そうとした土の中には、彼らが冬から春にかけて丹精込めて作り上げた巣が隠されていたのです。パニックになりそうになるのを必死で抑え、私はシャベルをその場に捨ててゆっくりと後退しました。蜂たちは執拗に私の周囲を飛び回りましたが、幸いなことに激しく刺される前に距離を取ることができました。後で調べて分かったことですが、土の中に作られた蜂の巣は、外からは全く見えなくても、内部では驚くほど整然とした階層構造が作られているのだそうです。私がシャベルを入れた場所は、ちょうど巣の最上部、彼らにとっては天蓋にあたる部分だったのでしょう。庭という、自分にとって最も安全でコントロールできているはずの場所が、一瞬にして生命を脅かす危険地帯へと変貌した恐怖は、今でも忘れられません。その後、専門の業者に依頼して駆除を行ってもらいましたが、掘り出された巣はバレーボールほどの大きさがあり、中には無数の幼虫と、成虫がひしめき合っていました。業者の話では、土の中は外敵から守られているため、一度巣が作られると巨大化しやすいとのことでした。特に今回のように、古い木の根が張っている場所や、土が柔らかく加工しやすい場所は、蜂にとって最高の不動産物件なのだそうです。この経験以来、私は庭仕事をするとき、必ず事前にその場所を遠くから観察するようになりました。蜂が一箇所に吸い込まれるように入っていく動きはないか、地面から不自然な羽音が聞こえないか、それらを確認してからでないと土に触れることができなくなりました。土の中に蜂が巣を作るという知識は頭では分かっていても、実際に自分の手でそれを暴いてしまった時の衝撃は、教科書に書いてある言葉の何百倍も重いものでした。もし、あなたの庭にも長年動かしていない大きな石や、古い切り株、あるいは少し盛り上がった土の斜面があるのなら、そこには「見えない隣人」が住んでいるかもしれないと考えてみてください。自然は私たちが思う以上に身近なところで、その鋭い牙、あるいは針を隠し持っているのです。あの日、もし私がもっと乱暴に土を掘り起こしていたら、あるいは蜂に対して手で追い払うような動作をしていたら、今こうして筆を執ることもできていなかったかもしれません。土の中に潜む蜂の巣は、静かな庭に仕掛けられた自然の罠そのものでした。